💡 操作のヒント
・山(障害物)をドラッグ、または下部のスライダーで、位置と高度を自由に変更できます。
・送受信距離を伸ばすと、地球湾曲(隆起)が大地のカーブとして現れます。
通信良好 (LoS)
📝 回線設計(リンクバジェット)
🎯 正面から見た断面図 (Cross-Section)
障害物の物理的高度に「地球湾曲の隆起分 $h_c$」を加算した等価障害物面(グレー)が、同心円状のフレネルゾーンをどのように遮っているかを示す正面図です。
💡 実際の回線設計:地球の湾曲と屈折を考える理由
なぜ地球の湾曲を考慮するのか?
送受信アンテナ間の距離が数キロメートルを超えると、地球の丸み(球面)によって、中間地点の大地が上方へドーム状に盛り上がってきます。 このため、仮に送信アンテナと受信アンテナの物理的な高さが同一であっても、中間の地表面は送信・受信地点より高くなり、フレネルゾーンや見通し線(LOS)を侵食します。これを「地球湾曲による隆起高度 $h_c$」として障害物の高さに加算して設計する必要があります。
大気屈折と等価地球半径係数 k
電波は密度の高い大気から密度の低い上空へと向かう際、下方向(地球側)にわずかに曲がって進みます(屈折現象)。 この「電波の曲がり」を平坦な直線として扱いやすくするため、幾何学的に地球の半径を実際の約 1.33 倍($k=4/3$)に引き伸ばして(等価地球半径として)計算を行います。これが実務で使われる標準的な「等価地球半径」の仕組みです。
シミュレータに現れる「大地の盛り上がり」
距離 $D$ を20km以上に設定して、障害物スライダーを動かしてみてください。送信機と受信機の底をつなぐ灰色の地面が、中心部で高く盛り上がる「地球の曲線」を描き出します。これこそが長距離無線回線設計においてクリアランスを奪う地球そのものの姿です。
📖 1. フレネルゾーンの物理的原理と定義
送信機($Tx$)と受信機($Rx$)から放射される電波は、細い直線ではなく、回転楕円体(ラグビーボール状)の広がりを持った空間を通じてエネルギーを伝搬しています。 この伝搬に必要な空間の領域をフレネルゾーン(Fresnel Zone)と呼びます。
フレネルゾーンは「光路差(直接波と反射波の距離の差)」の物理的性質に基づき、同心円筒状に無限に定義されます。 その本質は「電波の同相(強め合い)と逆相(打ち消し合い)の干渉条件」にあります。
直接波との光路差(幾何学的距離の差)が $0$ から $\frac{\lambda}{2}$ (半波長) 未満となる領域。 この領域からの反射波は、受信点 $Rx$ に届いた時に直接波と位相が同相に近いため、互いに強め合って受信感度を高めます。
直接波との光路差が $\frac{\lambda}{2}$ から $\lambda$ (1波長) 未満となる領域。 第2ゾーンを通る電波は逆相として受信点に到着し、直接波を打ち消し合って受信電力を減衰させる作用を持ちます。
直接波との光路差が $(n-1)\frac{\lambda}{2}$ から $n\frac{\lambda}{2}$ の間となる領域。 偶数番目は打ち消し合い(逆相)、奇数番目は強め合い(同相)となります。 第1フレネルゾーンのエネルギーが全体の電波伝搬の大部分(大部分の電力)を担っています。
🌍 2. 地球湾曲・屈折(kファクタ)をなぜ考慮するのか?何が起こるのか?
1. なぜ考慮する必要があるのか?何が起こるのか?
地球が球体であるため、アンテナ同士が直線距離で見通せる範囲にあっても、地球そのものの表面が障害物としてせり上がってきます。 例えば、距離が20km、40kmと伸びると、本来はまっすぐな地面がドーム状に膨らみ、その隆起は数メートルから数十メートルに達します。
さらに、大気の密度変化によって電波が下向きに曲がって届くため、実際の地球半径 $R$ ではなく、大気の屈折を加味した「等価地球半径 $R_e = k R$」を用いて補正しなければ、回線設計(特にアンテナ高の選定)が破綻してしまいます。
2. 地球湾曲隆起高度 $h_c$ の「解き方の手順(ステップ)」
【ステップ 1】等価地球半径 $R_e$ の算出
実際の地球半径を $R \approx 6,370 \text{ km}$ とします。大気の屈折効果を加味した等価地球半径係数($k$-factor)を掛け算し、等価地球半径 $R_e$ を求めます。
$$R_e = k \times R \quad [\text{km}]$$
※ 日本国内などの標準大気下では、通常 $k = \frac{4}{3} \approx 1.333$ を使用します(等価地球半径 $R_e \approx 8,500 \text{ km}$ となります)。
【ステップ 2】特定地点における隆起高 $h_c$ の立式と近似公式
送信機から距離 $d_1 \text{ [km]}$、受信機から距離 $d_2 \text{ [km]}$ 離れた地点において、地球の曲率によって地表面が真の水平線からどれだけ盛り上がって見えるか(隆起高度 $h_c \text{ [m]}$)を算出します。
$$h_c = \frac{d_1 d_2}{2 R_e} \quad [\text{m}]$$
実務用の単位系(距離は km、高度は m)に換算します。 $R_e = k \times 6,370 \text{ km}$ を代入して整理すると、エンジニアが使う極めて有名な実用近似式になります。
$$h_c = \frac{d_1 \times d_2}{2 \times k \times 6,370} \times 10^3 \approx \frac{d_1 d_2}{12.74 k} \quad [\text{m}]$$
さらに標準状態 $k = 4/3$ を代入すると、大地の盛り上がりを求める最も簡単な実用式が得られます。
$$h_c \approx \frac{d_1 d_2}{17} \quad [\text{m}] \quad (\text{保守的に見積もる場合は } \approx \frac{d_1 d_2}{20} \text{ とすることもあります})$$
【ステップ 3】等価障害物高度 $h_{total}$ の決定
その地点に物理的な建物や山の高さ $h_{obs}$ がある場合、地球湾曲による隆起高度 $h_c$ を加算し、送受信直線軸(見通し線)を侵食する「実質的な障害物高度 $h_{total}$」とみなします。
$$h_{total} = h_{obs} + h_c \quad [\text{m}]$$
【ステップ 4】第1フレネルクリアランスの合否評価
その地点の第1フレネル半径 $F_1 \text{ [m]}$ を求め、アンテナ高 $h_{ant}$ (見通し線)から差し引いた等価的なクリアランス(余裕高さ)が、フレネル半径の $60\%$ 以上確保できているかを評価します。
$$\text{クリアランス比} = \frac{h_{ant} - h_{total}}{F_1} \ge 0.6 \quad \implies \quad \text{合格 (自由空間損失のみ)}$$
📐 3. フレネルゾーン公式のステップ別詳細導出
送信点 $Tx$ から受信点 $Rx$ までの直線距離を $d$ とし、その中間にある任意の観測点 $P$ を考えます。 この $P$ が第 $n$ フレネルゾーンの境界にあるときの半径 $r_n$ を数学的に求めます。
ステップ 1: 幾何学的配置と光路差の立式
送信機 $Tx$ から距離 $d_1$、受信機 $Rx$ から距離 $d_2$ の位置にある断面を想定します(全距離 $d = d_1 + d_2$)。 この断面上で、見通し線(中心)から半径 $r_n$ だけ離れた点 $M$ を経由する経路を考えます。
第 $n$ フレネルゾーンの定義により、直接波と反射波の距離の差(光路差)がちょうど半波長の $n$倍となる条件を立てます。
ステップ 2: 近似展開(マクローリン/テイラー展開の適用)
通常の長距離無線通信において、アンテナ間の距離 $d_1, d_2$ はフレネル半径 $r_n$ に比べて圧倒的に大きいです(すなわち、 $d_1, d_2 \gg r_n$ )。 よって、次の二項定理による近似( $\sqrt{1 + x} \approx 1 + \frac{x}{2}$ )を利用します。
ステップ 3: 式の整理と共通因数の整理
ステップ2で得た近似式を、ステップ1で立てた光路差の定義式に代入します。
ステップ 4: 最終公式の導出(フレネル半径 $r_n$)
$r_n$ について解くことで、すべてのフレネルゾーンの半径を決定づける公式が完成します。
ステップ 5: 実用単位系への変換(無線エンジニアが使う実用式)
実務では、距離を km、周波数を GHz、求める半径 $F_n$ を m として計算します。 光速 $c = 3 \times 10^8 \text{ m/s}$、および波長 $\lambda = \frac{3 \times 10^8}{f \times 10^9} = \frac{0.3}{f \text (GHz)}$ を理論式に代入して、実用単位に変換します。
距離を $d_1, d_2$ [km] とする($1\text{ km} = 1000\text{ m}$)。単位換算を施して式を展開すると:
⚡ 第1フレネル半径 ($n=1$) の実務式:
$$F_1 = 17.32 \times \sqrt{\frac{d_1 d_2}{f (d_1 + d_2)}} \quad \text{[m]}$$
※ $d_1, d_2$ は [km]、周波数 $f$ は [GHz] を入力するだけで、半径 $F_1$ [m] が直ちに得られます。
📡 4. 回線設計(リンクバジェット)の構築理論
回線設計とは、無線通信システムにおいて「送信機の送信パワーから始まって、アンテナ利得、空中での損失、ケーブルやコネクタの損失、障害物による追加損失などを差し引いて、最終的に受信機に届く電波の強さを計算し、安定して通信できるかを確認する」一連の設計ステップです。
基本式(デシベル:dB 計算)
すべての値をdBに揃えることで、複雑な掛け算・割り算を単純な足し算・引き算で計算できるようになります。
自由空間伝搬損失(FSPL)の数理
電波が何の障害物もない完全な真空(等方性空間)を伝わるとき、球面上にエネルギーが広がっていくことによる幾何学的な損失です。フリス(Friis)の伝達公式から導かれます。
ナイフエッジ回折(Knife-edge Diffraction)モデル
障害物が薄い刃物のように立ち塞がっているとしたときの、障害物による電波の曲がり込み(回折)の理論モデルです。 クリアランス比と回折パラメータ $v$ の関係は、以下の式に基づきます。
※ $h_{inv}$ は見通し線(LOS)を基準とした等価障害物侵入高(隆起高 $h_c$ と建物物理高 $h_{obs}$ を足し合わせたもの。LOSより突き出ているとき正、下がっているときは負)。
回折損失 $L_{diff}$ (dB) はフレネル積分により求められますが、実務上はLeeの近似式がよく用いられます。障害物がLOSの線に接するとき($v = 0$)、損失は理論上ちょうど 6 dB(電力が1/4)になります。